田舎暮らしを始めて

目の前の自然が、新鮮な刺激として感じられるようになったのである。自然は、どんな人間にも寛大である。そして、どんなに自然に対して無関心な人間であろうと、ひとたび自然の中に身を置かれると、何らかの行動を起こしはじめる。天気がよければ、自然に外に出たくなり、外に出ると草の緑に目を奪われ、花や木が気になり……。植物が駄目なら、虫がいる、鳥もいる、動物相手だっていい。観察するだけで満足できなければ、植物や野菜を育てればいい。それも苦手ならば、空を眺め、風に吹かれ、川のそよぎに耳を傾ければいい。それこそ、自然の中には無限の喜びが潜んでおり、それを発見できる能力が備わっているのは、若い世代よりも、むしろ人生経験が豊富な熟年層、定年層ではないのか。中村さんが自然の中で忙しい日々を過ごすようになるのは、田舎暮らしを始めた以上、当然の帰結でもあった。そして中村さんの忙しい日々を眺めていて気づく、もう一つの事実がある。それはお二人が、消費的趣味に埋没していないという点である。お二人は、年に一度海外旅行へ行くという趣味も持っているが、房総の生活の舞台ではお金をかけた遊びとはほとんど無縁に過ごしている。それもまた、自然の中に暮らしているからこそ可能なのではないか。新宿から出発する中央線の特急は、ウイークデーともなると登山姿の熟年男女、特に女性たちでにぎわっている。赤坂のクラシック専用のホールにもまた、熟年層が目立つ。

Comments are closed.