無理なく、力まず、自然体で

田舎へ引っ越して八年が経過した。八年の歳月は、中村さん夫妻をどう変えていったのだろう。「たしかに田舎の生活は不便ですね。でも、そんなことよりも、自分が心身ともに健康になっていくのを実感します」と語るのは奥さんの千代子さん。千代子さんは、詩人でもある。「満月の夜なんて、寝室の床にカーテンからもれた月の光がくっきり映っているの。その瞬間、「あら!お月様に見られちゃった」って、恥ずかしくなるくらい」自然は、人生の円熟期を迎えた大人に、子どもの心にも似た詩心を取り戻してくれる。「多分、我われにとってはここが最後の住まいになるでしょう。もう引っ越しをすることもありません。じつは、私たちはカトリックの信者なんです。信徒としては、信仰生活の至らなさを嘆くしかありませんが、少なくともここに引っ越してきたことに関しては後悔はありませんな」中村さんは、前述のように名門鳥取一中の卒業生である。この中学校は不思議な学校で、今でも東京で毎月一回、同窓生の集まりがあるという。その会に出席する中村さんは、仲間からこうからかわれるという。「孫もすぐ近くにいるし、たっぷりの自然にも囲まれている。つくづくおまえは、幸福者だよ」自然の流れにのっとった人生を生きてきた結果、たどり着いた終の住処は田舎だった。中村さん夫妻の人生を要約すると、そんな言い方ができるだろうか。

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